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「ねぇ、トモエ帰ろっ!」

柔らかな腕がするりと絡まる。

同時に揺れる空気。

鼻につく女のにおい。

 

「あー・・・わり。今日はケータと寄るとこあんのよ」

「えー、またぁ?」

口で不満を零しながら上目遣いで見上げてくる俺のカノジョ。

これはこれで可愛いと思う。

この臭いがなければ。

 

「悪ぃな。アイシテルぜ?」

「んもぅ、しょうがないなぁ。また明日ね、トモエ」

「おー、バイバイ」

アイシテル。

こんな軽い言葉にころりと騙され嬉しそうにするカノジョ。

ってか、アイシテルって何?

愛だの恋だのってめんどくせぇ。

ヤりたいし、どうしヤるなら、好みの方がいいじゃん?

でも、彼氏彼女ってのもめんどくせぇな…。

 

「とぉもぉぇ~。目が笑ってないでぇ?」

今しがた解放された腕に絡みつくゴツイ腕。

鳥肌立つような男の猫なで声が耳を撫でる。

「・・・誰の真似だよ、誰の」

「誰ってお前のカノジョに決まってんやろ」

「うっわ、似てねっ。つか、キショ」

「トモエ、お前あんな言い方したらカノジョちゃん可哀想やろ?」

「そうか?駄目になったら、なったでいいし」

「アレの日だからって愛がないなぁ~」

パッと解放された腕をぐるりと回した。

「仕方ネェだろ。アノ女って感じの臭い駄目なんだからよ。ってか俺の愛ってナニだし?」

自然と歪んだ笑みが浮かんでそのままケータを見た。

「うっわっ!お下品やっ!」

ケタケタと笑うケータを横目にカバンを手にして歩き出す。

「一番分かりやすいじゃねぇか」

「勃てば誤魔化しもきくし?」

ふと真剣な視線に射抜かれて心臓が跳ねた。

「言葉だけのアイシテルなら十分だろ?」

「カノジョちゃんもそれで満足してるからえぇか」

「何か意味深だな。オイ」

「あたい、トモエに愛を教えてあげたいっ」

両手を胸に当てて大昔の少女マンガばりの演技を見せるケータ。

本人も狙ってるせいか、口角や目じりが笑いにピクピクと動いている。

「きしょ・・・」

「なんや、人がせっかく愛を教えたる言うてんのにぃ」

「お前の愛も俺とかわんねぇだろ」

「バレタ?」

「・・・・・・」

「トモエがいくらカッコ良くても無理や。勃起せぇへん」

「お前、それは俺の台詞だっつの」

「いやぁん。ケータってばトモエに処女奪われちゃぅ~!」

「誰がてめぇに勃起するか」

「あらやだわ。トモエちゃんってばED?早すぎやろ?」

「バイアグラに頼るか」

「いやや~。そない飲んでるトモエ見とうないー!」

「じゃ、萎えさすな。・・・あっ・・・」

「なんや?どうした?」

「ケータ、キスしてみるか?」

「誰と?」

「俺と」

「誰が?」

「ケータが」

「っぷ、あはははは…やめ、腹捩れるぅ」

 

結局、愛がどうのって話しはいつの間にか消え果て、笑い死にそうなケータとキスしてみた。

キスしてみたけど、やっぱり恋とか愛とか感じなかったし、勿論勃ちゃったなんてオチもなく。

ただただ腹が捩れるほど笑い転げただけだった。

  

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